" ルールその1:「ファイトクラブ」のことは誰にも言うな。"

デヴィット・フィンチャー監督作品の中でも、一際尖った怪作「Fight Club」。

タイトルとパッケージに相応しく、砂埃舞う薄暗い地下室で、筋肉バキバキの男が上半身裸で素手のぶん殴り合いを毎夜繰り広げる本作。

主人公(ブラピじゃないほう)のナヨナヨ感も相まって、泥臭いサクセスストーリーが始まる様相だが、実際はそうでもない。

この作品は全編通して漂う狂気性からして、中々のカルト映画。

フィンチャー監督らしい、ミステリーとしてのギミックもかなり仕込まれていて、飽きさせない展開になっているし、

凝った演出、役者の演技、シナリオ構成、どれもが高いクオリティで、何も考えずに視聴してもそれなりにエンタメが味わえる作品ではある。

が、上述した内容はこの作品の"本質"ではない。

本作の名もなき主人公は、それすなわち"自分自身の投影"。

自分を取り巻く環境や、各々キャラクターによる哲学的な問いかけ。

非常にいろんな解釈が出来る作品ではあるけど、やっぱり思考が過激すぎてかなり人を選ぶ作品だとも思う。

でも誰しもが彼と同じ"根源"を持っているはず。

そこに共感できれば、きっとそのまま引きずり込まれて彼の生き様が自分の"芯"にぶっ刺さり続けるだろう。

エンディングシーンは爆アチ。最高

痛みを感じろ。苦しみと犠牲が尊いんだ。痛みから逃げるな。人生最高の瞬間を味わえ

"目指せサイコパスマスター"

事実は小説よりも奇なり?なら事実そのまま映像エンタメにしてやるよ!といったテンションを感じるフィンチャー監督らしいエキセントリックな作品。

物語のベースは「FBI心理分析官」と呼ばれる実際のFBI捜査官の手記が元になっており、今でいう「シリアルキラー」呼ばれる単語を生み出した捜査官と、犯罪心理学発展の黎明期に

これまでの異常殺人者と面会して"その犯罪心理をデータベース化"しようという、そのプロファイリングの実態をキレッキレの演出とともに映像化したモノです。

サイコパスをテーマにしながら、グロテスク要素を排除させ"サイコパスの考え方"そのものにスポットを当てた恐怖演出や、ダークなシナリオと一転しポップな音楽と共にテンポよく場面が差し込まれる洗練されたセンス。

何より、実際に猟奇殺人が行われた当時の実資料を持ち出し、当時アメリカを恐怖のどん底に叩き落した有名な猟奇殺人者たち(マンソンファミリー、エド・ケンパー、バーコヴィッツ、スペック...etc)を実名でかつ非常にその容姿の似通った俳優で登場させる、などリアリスティックをとことん追求しています。

既に起きてしまった猟奇殺人のデータベース化と並行して、実際に発生し続ける事件をデータを用いて未然防止するという、事件解決のサスペンス要素も含まれており、飽きさせない展開になっています。

20年以上前の世代が舞台といっても、被害者感情に寄り添えば中々コンプラ的にアウトな作品です、日本で同じような作品をここまでリアルに制作しようものなら批判の嵐でしょう。

このレビューを読んで気分を害さなかった方もまたある意味で素質がある方と思いますが、本作の主人公のように"狂気に魅せられすぎない"よう、ご注意を。

某探偵漫画でいう"東と西の名探偵"ならぬ、アメリカ屈指の"天才交渉人同士"のクライムサスペンス映画。

キャッチコピーは「IQ180の駆け引き」。

実績のある名交渉人がある事件を発端に、殺人の容疑をかけられるが黒幕の存在を明らかにするため逮捕されるわけにはいかず、自身が所属する警察署の署員と上司を盾に立て籠もり犯となって時間を稼ぐ。

当然彼は外部の警察が立て籠もり犯に対してどのような手口で交渉を持ちかけてくるかは全て把握済、手の平で転がすように警察をコントロールしていた。

そして、本命の交渉役が遅れて到着。

しかしその人物は、若手ながら他部署にその名が轟くほどの"天才"と称される交渉人であった、、、というあらすじ。

まずサミュエル・エル・ジャクソンとケビンスペイシー、W主演の画ヂカラが凄いです。

IQ180の...と謳いながらすぐ拳銃ぶっぱなすところがアメリカ映画っぽくて笑っちゃうんですが、二人の交渉人が邂逅した後の緊迫感のある話術は引き込まれるモノがあります。

実際は立て籠もり犯側の交渉人は冤罪であることがわかっているため、人質に危害を加えないとわかっていても、です。

そこはサミュエル、役柄として立て籠もり犯がどういう言動をするか分かっていての振る舞いですが、その清々しい怪演っぷりにテンションが上がります。

どんでん返しはありませんが非常にスッキリとしたラストで、映画を視聴したとき特有の充足感を多分に得られる、まさにポップコーンとコーラを両手に抱えて観たい映画です。

広大な大空とその生涯のほとんどを空の生活で過ごす人々、階級制度の残る古臭い世界観に油の匂いがスクリーンから伝わってきそうなスチームパンク満載の舞台装置、政府の陰謀によって騒乱に巻き込まれていく"少年少女"の冒険譚。

冒頭文に惹かれた方には是非鑑賞して頂きたい。

非常に特異な世界観で、スムーズにその世界へ没入出来ればそこらの作品では得られない感動がある。

作中で世界観について語られることは少ない割に、造語が多くSF考察モノのような非常に重厚な設定でありながら、視聴者への想像の余地を広く残した懐の深い作品。

シナリオのキーワードはパイロットと飛空挺ヴァンシップ。

国同士の陰謀や対立とは無縁に、"グランドストリーム"と呼ばれる前人未到の大嵐を超え、その先のまだ見ぬ"世界"を知ることだけを夢に生きるバディ。

国家の騒乱の隙間を抜け、彼らは"世界の外側"を見ることが叶うのか?

今の時代の作品では希薄となってしまった、さながら旧作ジブリのファンタジーに感じられたような、その"ロマン"溢れる情景に心を焦がして欲しい。

『よき風と共に』

アーロン・ソーキンがメガホンを取った、2020年秋より配信されたネットフリックスオリジナル作品。

完全な実話ベースで限りなくリアリティに寄り添った超・社会派映画でありながら、完璧なまでにエンタメ作品として昇華された大傑作。

演者は映画ファンでなくとも一人は見たことがあるであろう、実力派揃い。

難しいワードが出てくることもありますが、それをモノともしない圧巻のセリフ回しと熱演。

この映画の一番の名台詞・名シーンを選べと言われたら、三日悩んで頭痛を引き起こすほど。

余りにも台詞が良すぎる故、この映画は字幕/吹き替え、のどちらも見ることを強く推奨します。

逆に言えば、一期一会でどちらかで鑑賞する!と決めても面白さを損なわない。

(翻訳者の解釈が素晴らしい。)

また、重たいテーマでありながら知的なジョークを飛ばす会話シーンとそのテンポ感の良さ、劇伴もカッコいいです。

裁判モノのエンタメに外せない圧倒的爽快感、急展開の連続は演者の画ヂカラも相まって圧倒的テンションで引き込まれ、、、、

その結末には " 魂 " 震えます。

" 世界が、見てる! "

本作の最大の評価点は、分かり易さとテンポの良さに尽きます。

よく王道という言葉をこの作品の評価で目にしますが、それは"誰もが共感し得る"ポイントを外していないということ。

主人公が挫折しても無駄にクヨクヨせず、自身が果たさなければならない目的に向かって寄り道をせずに「成すべきこと成す」、全体で芯の通った作品です。

老若男女問わず、それこそ普段漫画を読まない人にとっての入り口としても、本当に誰にでもおススメが出来る作品だと思います。

以下主観です。

・キャラクターの魅力

 本作でまず気になったのがキャラクターの魅力の描き方について。

 意図したものかはわかりませんが、キャラ全体を通して非常にトゲが少なく、誰にでも好かれる(嫌われない)要素を持った人物が多いです。

 人格がコロコロ変わってしまっても不自然ですが、"緩急"というものは魅力を付ける部分である程度必要だとは思っていて、そのキャラの"尖っている"部分が

 最初は誰にも理解されなかったけど、展開が進むにつれて"尖っていたからこそ"カッコいい、となるような側面が無い。

 実際はそういう緩急を持ったキャラは敵味方両サイドにいるが、ワンシーン挟んで180°ガラッと変わってしまうという意味で印象が変わりすぎるところがあります。

 (冒頭のテンポという要素とトレードオフではありますが)

 鬼サイドのバックボーンがわかりやすい例ですね。

・展開の波

 展開自体は確実に核心へと進み続けているはずなのに、中盤からその盛り上がりが打ち止めになっている感が否めない。

 むしろそのような状態に陥ると、盛り下がることが多いのですがしっかり最大をキープしたままゴールイン(完結)したという感覚。

 長尺の少年漫画で「いつ完結するんだ・・・」とダラダラ連載が続いている漫画に比して、むしろ清々しくて良いくらいですが、

 微弱な山有り谷有りで後半につれて"印象"が残りにくいというのが正直なところ。

・アクション(戦闘)

 アニメ放映開始をこと切りに、爆発的人気が出たのはこの要素が大きいと思います。

 本作品の戦闘シーンは弱者が圧倒的強者に挑むという構図から、アドリブでのアイディア勝負になることが多く、多彩で面白くはあるのですが

 "鬼気迫る迫力"や"鬼を殺した"といった爆発感に欠けると感じました。画力が追い付いていないということではなく、作風とのマッチだと思います。

 アニメは映像でしか成しえない表現を巧みに使い、原作の独特な作風や表現を維持しながら、とても見ごたえのある出来となっていたので。

 もっと個人的な趣向の話をしてしまうと、刀剣アクションということで戦闘における術理をもう少しそれぞれの呼吸法と絡めて深堀りして欲しかった。

 (例えば「水の呼吸」が相手の攻撃を受け流すスタイルに優れていたとして、踏み込む間合いや体重移動の訓練を人並み以上に積まなければならない、など。。。)

・セリフ回し

 セリフ回しが下手、とかではなく。

 冒頭で言った通り分かり易さに関して突出しているため、そこまで複雑な展開にはなっていないのに、やたら説明的で少し丁寧すぎるセリフや心理描写が多い。

 そのまま扉絵にしてしまえるような、簡潔でバシッとキマる表現があれば、このシーンが最高だ!と語らえる作品になったと思うのですがこの独特さは肌に合わなかったかも。

自分は捻くれていると思っています。

 

 

 

山本英夫先生の送る最強のサイコサスペンス作品。

未知の領域のひとつであり、人体におけるブラックボックスである"脳"という器官への興味はいつの時代も尽きない。

この手のテーマは常に倫理観スレスレのシナリオや演出がついてまわるため、カルト作品的なカテゴリーに位置づけられることが多い。

その中でも、ロボトミー手術と呼ばれる「感情を人体から切り離す」という手術をテーマとした作品がメジャージャンルの一つだろう。

今回スポットが当てられた、医療いや"儀式"ともいえるその題材は「トレパネーション」。

ロボトミーよりもはるか昔、古代ローマにおいて"意識の覚醒"を目的としたなんとも非常に怪しい医療行為だ。

本作品は、輝かしい生活から一転、落ちぶれた路上生活を送っていた主人公があるキッカケを経て「トレパネーション」を受けることになり、

"片目を塞いだ瞬間にこの世の異形"が見えるようになった、という奇妙な体験を綴ったものだ。

ここまで聞くと悪霊退治モノのようなファンタジーアクションが展開される様相だが、そうではない。

主人公はあくまでその異形が見えるだけであり、干渉することは出来ないし、彼らもまた干渉してこないからだ。

結論、この作品は無意識に異形を飼ってしまった人々と、彼らが"そうなってしまった動機を紐解くこと"に、狂気的なまでに惹かれてしまった主人公のヒューマンドラマが主軸となる。

山本英夫先生の狂気的なビジュアルや人間性を描く画力は勿論、人間の細かな機微を捉えた表情や台詞は圧巻のセンス。

また、スポットの当て方がなんとも嫌らしいというか、人々が目を背けたくなるダークな側面を非常に緊張感のある表現で描くため、かなりホラーテイストが強い。

この作品のラストの切なさと無情感は、漫画史上でもトップクラス。

様々なカタチの"愛"を哲学したいアナタ、クリスマスに一人ぼっちで読むことを"強く"おススメします。

"主人公はどこにでもいそうな平凡な学生"と謳われる昨今の作品において、フタを開けてみると常人とは思えない程の正義漢であったり、シンプルに突然才覚に目覚めたり、その逆で異様に卑屈だったり、記号化したオタクであったり。

物語にはリアリティがあって然るべき、とは思いませんが、本作はその"どこにでもある平凡"を限りなくリアルに近い空気感で切り取った作品です。

作中の和やかな青春のモラトリアムを思い起こさせるシーン、うだつの上がらない日常でぼんやりと思う将来への不安や葛藤など共感できる描写が多いかと思います。

しかしこの共感は、現実で"何者にも成れなかった"人達にとっては猛毒となり得るほどの説得力を持ちます。

物語の起承転結として大きな起伏は無いものの、始まりからラストまでのその構成力の巧みさや、シニカルな笑いを含ませたテンポの良い台詞回しによって、何度読んでも面白い思える良作です。

映像作品において観賞後に自身の血中体温があがるような熱量をもった作品があるとするならば、本作は正に"熱湯"を浴びせられるようなもの。

極道映画の金字塔「仁義なき戦い」を打ち立てた東映が平成に蘇らせた、現代における最強の極道作品。

昨今の"スタイリッシュさ"や"任侠"にスポットを当てたヤクザ映画と比して、圧倒的な"汚さ"と"破天荒さ"、そして"暴力"と"狂気"に塗れた、非常にテンションの強い本作。

その泥臭さ、いや"泥"そのもの。

全編オール広島ロケさながらのゴリゴリの広島弁と痺れる名台詞のオンパレード。

劇中のラストカットで、ある男がハイライトを吸うシーン。

火がついたら最期、燃えるのは"煙草"か。

あるいは燻っていた視聴者の"心"か。

藤田和日郎先生の大傑作少年漫画、映像化作品です。

舞台は現代の日本が中心ですが、内容は自動人形と呼ばれる強敵と相対する3人のメインキャラクター、

彼らの成長や数奇な運命を辿るアクションダークファンタジー作品ですね。

メインは三人と言いつつも、そもそも物語の重要ポジションにいる登場人物自体が多く、張り巡らされた伏線がシナリオの中に

非常に緻密に織り込まれており、少年漫画として鑑賞すると難解な作品です。

本来は(長編)漫画原作ということもあり、その情報量がシナリオをカバーしているため、特に映像化に不向きであることを放映前は懸念していました。

(実際長尺モノは注力しなければならないシーンやセリフが、各所に分散してしまって全体で観るとイマイチ...となることが多いですね。)

このアニメの素晴らしいところは、シナリオの分かり易さよりも原作者が描きたかったであろう"作品の本質"だけにしっかりフォーカスした作品であるということです。

どれだけ緻密で丁寧なシナリオであっても少年漫画です。

主人公達の成長や挫折、喜怒哀楽すべてに熱量が無ければ得られるカタルシスもありません。

本作のキーワードは「笑顔」というありふれた言葉ですが、それを口にする、守る、または自ら実行する作中のキャラクター達の説得力は漫画を超えた凄まじいものがあります。

主題歌においても、劇中の独特なセリフをそのまま歌詞に切り取ってきたかのような、見事な解釈だと感じますね。

提供音楽、スタッフ、声優全てに恵まれた作品です。

現実の世界で心をすり潰しながら"人形 "のように学生/社会人生活を送っている方、鑑賞された後にきっと自身の体温が上がっていることに気付くでしょう。

「俺は、俺になりてぇんだよ」と。