ホムンクルス(書籍)
【読み】 ほむんくるす
ホムンクルス(書籍)【 ほむんくるす】

新宿西口の一流ホテルとホームレスが溢れる公園の狭間で車上生活を送るホームレス・名越進は、医学生・伊藤学に出会い、報酬70万円を条件に第六感が芽生えるというトレパネーションという頭蓋骨に穴を開ける手術を受けることになった。

その手術以降、名越は右目を瞑って左目で人間を見ると、異様な形に見えるようになった。

伊藤によると「他人の深層心理が、現実のようにイメージ化されて見えているのではないか」と言い、彼はその世界をホムンクルスと名付けた。

そして、名越は様々な心の闇を抱える人達と交流していく。

みんなの感想

山本英夫先生の送る最強のサイコサスペンス作品。

未知の領域のひとつであり、人体におけるブラックボックスである"脳"という器官への興味はいつの時代も尽きない。

この手のテーマは常に倫理観スレスレのシナリオや演出がついてまわるため、カルト作品的なカテゴリーに位置づけられることが多い。

その中でも、ロボトミー手術と呼ばれる「感情を人体から切り離す」という手術をテーマとした作品がメジャージャンルの一つだろう。

今回スポットが当てられた、医療いや"儀式"ともいえるその題材は「トレパネーション」。

ロボトミーよりもはるか昔、古代ローマにおいて"意識の覚醒"を目的としたなんとも非常に怪しい医療行為だ。

本作品は、輝かしい生活から一転、落ちぶれた路上生活を送っていた主人公があるキッカケを経て「トレパネーション」を受けることになり、

"片目を塞いだ瞬間にこの世の異形"が見えるようになった、という奇妙な体験を綴ったものだ。

ここまで聞くと悪霊退治モノのようなファンタジーアクションが展開される様相だが、そうではない。

主人公はあくまでその異形が見えるだけであり、干渉することは出来ないし、彼らもまた干渉してこないからだ。

結論、この作品は無意識に異形を飼ってしまった人々と、彼らが"そうなってしまった動機を紐解くこと"に、狂気的なまでに惹かれてしまった主人公のヒューマンドラマが主軸となる。

山本英夫先生の狂気的なビジュアルや人間性を描く画力は勿論、人間の細かな機微を捉えた表情や台詞は圧巻のセンス。

また、スポットの当て方がなんとも嫌らしいというか、人々が目を背けたくなるダークな側面を非常に緊張感のある表現で描くため、かなりホラーテイストが強い。

この作品のラストの切なさと無情感は、漫画史上でもトップクラス。

様々なカタチの"愛"を哲学したいアナタ、クリスマスに一人ぼっちで読むことを"強く"おススメします。