ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー (書籍)
【読み】 ぼくはいえろーでほわいとでちょっとぶるー
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー (書籍)【 ぼくはいえろーでほわいとでちょっとぶるー】

新潮社 /著者:ブレイディみかこ
発売日 : 
2019/6/21

1980年代からイギリスに住み続け、保育士として働き、アイルランド人のトラック運転手(元証券会社社員)と結婚し、そして生まれた息子が中学に入るところから書いたエッセイ。

目次 【 試し読み】

  1. はじめに 
  2. 元底辺中学校への道 
  3. 「glee/グリー」みたいな新学期
  4. バッドでラップなクリスマス
  5. スクール・ポリティクス
  6. 誰かの靴を履いてみること 
  7. プールサイドのあちら側とこちら側 
  8. ユニフォーム・ブギ
  9. クールなのかジャパン 
  10. 地雷だらけの多様性ワールド
  11. 母ちゃんの国にて
  12. 未来は君らの手の中
  13. フォスター・チルドレンズ・ストーリー
  14. いじめと皆勤賞のはざま
  15. アイデンティティ熱のゆくえ
  16. 存在の耐えられない格差
  17. ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとグリーン



みんなの感想

個人的に「子供をつくること」に嫌悪感があることもあって、「自分の息子について書いたエッセイ」というものはもう最初から読む気になれない分野だった。
でも読んでしまったのは、ブレイディみかこという人に興味があったから。
あとはタイトルに惹かれた。
「イエローでホワイト」っていうのは日本人とコーカソイドのアイルランド人の間に生まれたから。それでもって「ブルー」っていうのはちょっと悩んじゃう思春期の感じがあって、結構うまいな、と思った。
それで新潮社のサイトで試し読みしたら・・・・見事に感動してしまったのです。
そのままアマゾンでぽちり、読んでまた感動して、味わうために読み返して、結局5回くらい読みました。

あまりに感動したので、友達の分まで買って押し付けるという迷惑行為までしてしまいました・・・

どこが感動したかというと、この息子さんの賢さと心の広さ・・・っていうのはまずあるのだけど、それはこの本を読んだ人誰もが言ってるし、私はあまりそこはポイントに感じなかった。
そもそも実の親が書いてるわけだし、ひいき目だってあると思うわけです。

日本社会とイギリス社会の違いについて、何か「決定的に根本」なことを見せつけられてしまって。
それに心が痛くなって泣けてきたのです。
一言でいうと、イギリスがうらやましかった。
「どうしてこういう感じに日本はならないんだろうな」って、悲しくて。
自分自身がだいじな時期をイギリスで過ごしたこともあり、「差別」よりもリスペクトとやさしさばかりが残っていることもあって、心底なつかしいというか、切なくなった。

だからといってイギリス社会がすべて「よい」のではなく、ダメなところもてんこ盛りなんだけど、そんなことは当たり前。
イギリスには人種差別が!ってすぐ反論されるけど、はっきり言って人種差別は日本の方がずっとひどい。これは紛れもない事実。
大阪なおみのBLMツイートに日本人が「日本には差別はない」ってリプして「にゃにー!!」って怒りを返してたけど、「うちの学校にはいじめはありません」みたいな、根拠ない「大丈夫発言」を平気でやるし。

単に人種的に多様な社会ではないのであまり事例がないだけで、東京入管や収容所など目立たないところで日本人が「外国人」にどのような酷いことをしているか、ちょっとググれば戦慄する詳細がぞろぞろ出てくるわけです。


これはなんなのかな、というと、一言でいうと「人権」のとらえ方だと思います。

イギリスでは、とにもかくにも、子供に「権利(人権)」を教え込むことを最初にします。日本は「義務を果たした者だけが権利を主張できる」という空気が色濃い。そこが決定的に違うの。

誰にもどんな人にも「人権」がある、それをリスペクトして、話はそこから。エンパシーもそこから、という前提。
もちろんすべての人がそうなっているわけではないですよ。そうじゃない人たちもいっぱいいます。
でも、だからこそ、繰り返し繰り返し、小さいころから訓練させられる。
そして、「そうじゃない人たち」の人権、発言する権利、これらも、一定条件のもとではあるけれども、守られる。

「この反応は日本ではありえないな」と感じた事件が2019年11月にありました。ちょうどこの本を読み終わったタイミングだったので強く印象に残っています。

ベトナムの村から若者が39人、多額の「渡航費」を払ってトラックの荷台に乗り込みイギリスに密航しようとしたのです。
でもたどり着く前に、コンテナの中で全員が凍死してしまったんです。大事件になりました。

それについて、亡くなった人たちを責める論調、「自己責任論」は、どこにも出てこなかったです。
匿名フォーラムのRedditにさえ。

そして、遺体が搬送される際、警官たちが道路際に立ち、みな頭をさげて敬意を表して見送りました。

亡くなった若者たちについて、希望を持ち、他に手段がないから、人生をかけてイギリスに来ようとしたのに・・・・って、その人たちへの追悼であふれていた。

こういうの、日本であるかな?
密航しようとしてた人を一切、責めないって、日本であるかな?

「密航しようとしてたんだから自己責任じゃね?」って、ならない?

でも、それだけは言っちゃいけないことなんだ。

コロナでも、日本では医療従事者の親がいる子は保育園に来ないでくれと言われることもあると聞いた。病院からタクシーに乗せてくれなくて離れたところから拾うという話も聞いた。
ホットスポットの東京から帰省すると地元でいじめにあう人も多いと聞く。
他県ナンバーには石を投げつけてくるところもあるとか・・・?

イギリスは真っ先に医療従事者への感謝コールが近隣からスタートした。
いろいろ大問題だって勃発してる。イギリスって、火種の国だし、いろいろダメなところも多いですよね。

それでも、「今回で人のやさしさにはあらためて触れることができたよ」という意見が多いの。

オランダにいてもそれは感じた。もともと結構感じのよいところだと思うけど、みんな前よりやさしく、フレンドリーになったの。
スーパーでもどこでも、距離をたもちつつ、気遣いを感じて、「ああ、いいところだな・・・」って。

こういう「違い」って、悲しくない?
経済的に斜陽なだけじゃなく、こういうところが、さ・・・

その違いがどうしてできるのかな?という、その分析のヒントが、この本には確実にあると思いました。