"主人公はどこにでもいそうな平凡な学生"と謳われる昨今の作品において、フタを開けてみると常人とは思えない程の正義漢であったり、シンプルに突然才覚に目覚めたり、その逆で異様に卑屈だったり、記号化したオタクであったり。
物語にはリアリティがあって然るべき、とは思いませんが、本作はその"どこにでもある平凡"を限りなくリアルに近い空気感で切り取った作品です。
作中の和やかな青春のモラトリアムを思い起こさせるシーン、うだつの上がらない日常でぼんやりと思う将来への不安や葛藤など共感できる描写が多いかと思います。
しかしこの共感は、現実で"何者にも成れなかった"人達にとっては猛毒となり得るほどの説得力を持ちます。
物語の起承転結として大きな起伏は無いものの、始まりからラストまでのその構成力の巧みさや、シニカルな笑いを含ませたテンポの良い台詞回しによって、何度読んでも面白い思える良作です。